貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針
(平成十三年八月二十日 国土交通省告示第千三百六十六号)
第一章 一般的な指導及び監督の指針
貨物自動車運送事業者は、貨物自動車運送事業輸送安全規則(平成2年運輸省令第22号。
以下「安全規則」という。)第10条第1項の規定に基づき、1に掲げる目的を達成するため、
2に掲げる内容について、3に掲げる事項に配慮しつつ、貨物自動車運送事業の用に供する
事業用自動車(以下単に「事業用自動車」という。)の運転者に対する指導及び監督を毎年
実施し、その日時、場所及び内容並びに指導及び監督を行った者及び受けた者を記録し、か
つ、その記録を営業所において3年間保存するものとする。
1 目的
事業用自動車の運転者は、大型の自動車を運転したり、多様な地理的、気象的状況の下で
運転したりすることから、道路の状況その他の運行の状況に関する判断及びその状況におけ
る運転について、高度な能力が要求される。このため、貨物自動車運送事業者は、事業用自
動車の運転者に対して継続的かつ計画的に指導及び監督を行い、他の運転者の模範となるべ
き運転者を育成する必要がある。そこで、貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に
対して行う一般的な指導及び監督は、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第 83 号)その
他の法令に基づき運転者が遵守すべき事項に関する知識のほか、事業用自動車の運行の安全
を確保するために必要な運転に関する技能及び知識を習得させることを目的とする。
2 指導及び監督の内容
(1) 事業用自動車を運転する場合の心構え
貨物自動車運送事業は公共的な輸送事業であり、貨物を安全、確実に輸送することが
社会的使命であることを認識させるとともに、事業用自動車による交通事故の統計を説
明すること等により、事業用自動車による交通事故が社会に与える影響の大きさ及び事
業用自動車の運転者の運転が他の運転者の運転に与える影響の大きさ等を理解させ、事
業用自動車の運行の安全を確保するとともに他の運転者の模範となることが事業用自
動車の運転者の使命であることを理解させる。
(2) 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
貨物自動車運送事業法、道路交通法(昭和35年法律第105号)及び道路運送車両法(昭
和26年法律第185号)に基づき運転者が遵守すべき事項を理解させる。 また、当該事項
から逸脱した方法や姿勢による運転をしたこと及び日常点検を怠ったことに起因する
交通事故の事例、当該交通事故を引き起こした貨物自動車運送事業者及び運転者に対す
る処分並びに当該交通事故が加害者、被害者その他の関係者に与える心理的影響を説明
すること等により 当該事項を遵守することの重要性を理解させる。
(3) 事業用自動車の構造上の特性
自らの運転する事業用自動車の車高、視野、死角、内輪差(右左折する場合又はカー
ブを通行する場合に後輪が前輪より内側を通ることをいう。以下同じ。)、制動距離等
を確認させるとともに、これらが車両により異なること及び運搬中の貨物が事業用自動
車の運転に与える影響を理解させる。この場合において、牽引自動車及び被牽引自動車
を運行する場合においては、当該牽引自動車を運転するに当たって留意すべき事項を、
当該被牽引自動車によりコンテナを運搬する場合においては、当該コンテナを下部隅金
具等により確実に緊締しなければならないことを併せて理解させる。また、これらを把
握していなかったことに起因する交通事故の事例を説明すること等により、事業用自動
車の構造上の特性を把握することの必要性を理解させる。
(4) 貨物の正しい積載方法
道路法(昭和27年法律第180号)その他の軸重の規制に関する法令に基づき運転者が
遵守すべき事項を理解させるとともに、偏荷重が生じないような貨物の積載方法及び運
搬中に荷崩れが生じないような貨物の固縛方法を指導する。また、偏荷重が生じている
場合、制動装置を操作したときに安定した姿勢で停止できないおそれがあること及びカ
ーブを通行したときに遠心力により事業用自動車の傾きが大きくなるおそれがあるこ
とを交通事故の事例を挙げるなどして理解、習得させる。
(5) 過積載の危険性
過積載に起因する交通事故の事例を説明すること等により、過積載が事業用自動車の
制動距離、安定性等に与える影響を理解させるとともに、過積載による運行を行った場
合における貨物自動車運送事業者、事業用自動車の運転者及び荷主に対する処分につい
て理解させる。
(6) 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
危険物(自動車事故報告規則(昭和26年運輸省令第104号)第2条第5号に規定する
ものをいう。 以下同じ。)を運搬する場合においては、危険物に該当する貨物の種類
及び運搬する危険物の性状を理解させるとともに、危険物を運搬する前に確認すべき事
項並びに危険物の取扱い方法、積載方法及び運搬方法について留意すべき事項を理解さ
せる。また、運搬中に危険物が飛散又は漏えいした場合に安全を確保するためにとるべ
き方法を指導し、習得させる。この場合において、タンクローリにより危険物を運搬す
る場合にあっては、これを安全に運搬するために留意すべき事項を理解させる。
(7) 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況
① 当該貨物自動車運送事業に係る主な道路及び交通の状況をあらかじめ把握させる
よう指導するとともに、これらの状況を踏まえ、事業用自動車を安全に運転するため
に留意すべき事項を指導する。この場合、交通事故の事例又は自社の事業用自動車の
運転者が運転中に他の自動車又は歩行者等と衝突又は接触するおそれがあったと認
識した事例 (いわゆる 「ヒヤリ ・ハット体験」)を説明すること等により運転者
に理解させる。
② 道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号)第2条、第4条又は第4条の
2について同令第55条の認定を受けた事業用自動車を運転させる場合及び道路法第
47条の2第1項に規定する許可又は道路交通法第 57 条第3項に規定する許可を受
けて事業用自動車を運転させる場合は、安全に通行できる経路としてあらかじめ設定
した経路を通行するよう指導するとともに、当該経路における道路及び交通の状況を
踏まえ、当該事業用自動車を安全に運転するために留意すべき事項を指導し、理解さ
せる。
(8) 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
強風、豪雪等の悪天候が運転に与える影響、右左折時における内輪差、直前、後方及
び左側方の視界の制約並びにジャックナイフ現象(制動装置を操作したときに牽引自動
車と被牽引自動車が連結部分で折れ曲がり、安定性を失う現象をいう。)等の事業用自
動車の運転に関して生ずる様々な危険について、危険予知訓練の手法等を用いて理解さ
せるとともに、危険を予測し、回避するための自らへの注意喚起の手法として、指差呼
称及び安全呼称を行う習慣を体得させる。また、事故発生時、災害発生時その他の緊急
時における対応方法について事例を説明すること等により理解させる。
(9) 運転者の運転適性に応じた安全運転
適性診断その他の方法により運転者の運転適性を把握し、個々の運転者に自らの運転
行動の特性を自覚させる。また、運転者のストレス等の心身の状態に配慮した適切な指
導を行う。
(10) 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
長時間連続運転等による過労、睡眠不足、医薬品等の服用に伴い誘発される眠気、飲
酒が身体に与える影響等の生理的要因及び慣れ、自らの運転技能への過信による集中力
の欠如等の心理的要因が交通事故を引き起こすおそれがあることを事例を説明するこ
とにより理解させるとともに、貨物自動車運送事業輸送安全規則第三条第四項の規定に
基づき事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準を定める告示(平成13
年国土交通省告示第1365号)に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間を
理解させる。 また、運転中に疲労や眠気を感じたときは運転を中止し、休憩するか、
又は睡眠をとるよう指導するとともに、飲酒運転、酒気帯び運転及び覚せい剤等の使用
の禁止を徹底する。
(11) 健康管理の重要性
疾病が交通事故の要因となるおそれがあることを事例を説明すること等により理解
させるとともに、定期的な健康診断の結果、心理的な負担の程度を把握するための検査
の結果等に基づいて生活習慣の改善を図るなど適切な心身の健康管理を行うことの重
要性を理解させる。
(12) 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車を運行する場合においては、
当該装置の機能への過信及び誤った使用方法が交通事故の要因となるおそれがあるこ
とについて説明すること等により、当該事業用自動車の適切な運転方法を理解させる。
3 指導及び監督の実施に当たって配慮すべき事項
(1) 運転者に対する指導及び監督の意義についての理解
貨物自動車運送事業者は、貨物自動車運送事業法その他の法令に基づき運転者が遵
守すべき事項に関する知識のほか、事業用自動車の運行の安全を確保するために必要
な運転に関する技能及び知識を運転者に習得させることについて、重要な役割を果た
す責務を有していることを理解する必要がある。
(2) 計画的な指導及び監督の実施
貨物自動車運送事業者は、運転者の指導及び監督を継続的、計画的に実施するため
の基本的な計画を作成し、計画的かつ体系的に指導及び監督を実施することが必要で
ある。
(3) 運転者の理解を深める指導及び監督の実施
運転者が自ら考えることにより指導及び監督の内容を理解できるように手法を工夫
するとともに、常に運転者の習得の程度を把握しながら指導及び監督を進めるよう配
慮することが必要である。
(4) 参加・体験・実践型の指導及び監督の手法の活用
運転者が事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な技能及び知識を体験に
基づいて習得し、その必要性を理解できるようにするとともに、運転者が交通ルール
等から逸脱した運転操作又は知識を身に付けている場合には、それを客観的に把握し、
是正できるようにするため、参加・体験・実践型の指導及び監督の手法を積極的に活
用することが必要である。例えば、交通事故の実例を挙げ、その要因及び対策につい
て、必要により運転者を少人数のグループに分けて話し合いをさせたり、イラスト又
はビデオ等の視聴覚教材又は運転シミュレーターを用いて交通事故の発生する状況等
を間接的又は擬似的に体験させたり、実際に事業用自動車を運転させ、技能及び知識
の習得の程度を認識させたり、実験により事業用自動車の死角、内輪差及び制動距離
等を確認させたりするなど手法を工夫することが必要である。
(5) 社会的情勢等に応じた指導及び監督の内容の見直し
指導及び監督の具体的内容は、社会情勢等の変化に対応したものでなければならな
い。このため、貨物自動車運送事業法その他の関係法令等の改正の動向及び業務の態
様が類似した他の貨物自動車運送事業者による交通事故の実例等について、関係行政
機関及び団体等から幅広く情報を収集することに努め、必要に応じて指導及び監督の
内容を見直すことが必要である。
(6) 指導者の育成及び資質の向上
指導及び監督を実施する者を自社内から選任する貨物自動車運送事業者は、これら
の者に対し、指導及び監督の内容及び手法に関する知識及び技術を習得させるととも
に、常にその向上を図るよう努めることが必要である。
(7) 外部の専門的機関の活用
指導及び監督を実施する際には、指導及び監督のための専門的な知識及び技術並び
に場所を有する外部の専門的機関を積極的に活用することが望ましい。